#淀川長治~日本における映画解説の第一人者との思い出

◆ 淀川長治
1909年(明治42年)~1908年(平成10年)
雑誌編集者 映画解説者 映画評論家
若い映画ファンは知らないと思いますが、20世紀に淀川長治という映画解説の神様みたいな人がいました。この頃各テレビ局には映画放送番組が定番としてあり、テレビ朝日「日曜洋画劇場」(解説:淀川長治)、日本テレビ「水曜ロードショー」(解説:水野晴郎)、TBS「月曜ロードショー」(解説:荻昌弘)などがありました。現代のようにレンタルビデオやBS/CS、ネットなどない時代、それらは映画ファンには貴重な番組でした。中でも映画解説の第一人者として神様のように尊敬されていたのが淀川長治さんでした。今回、淀川長治さんという人物を後世に語り継ぎたいと思いブログにしました。
わたしが淀川長治さん(以降淀川先生と呼びます)とお会いしたのは今から30年ほど前、とある映画会社で映画配給を担当している時期でした。イタリアの巨匠監督の映画を公開することになり、淀川先生に推薦コメントを頂くアプローチをしたときでした。六本木にある淀川先生の定宿ホテルにお伺いし打合せをさせて頂きました。幼少期からテレビや雑誌でよく見ていた人なので、とても緊張して何をどう話していたかあまり覚えていません。ただ、めちゃくちゃ質問攻めにされた印象があります。あまりにマニアックな質問、映画とはあまり関係のない質問だらけだったような気がします。別れ際に「もっともっと勉強してね」と笑顔で言われたのだけは覚えています。
その後、東京国際映画祭などで何度かお見掛けしました。日本の巨匠黒澤明監督とは親友で、ふたりで歩きながら話している様子は、(大柄な黒澤監督と小柄な淀川先生)たとえは良くないですが、まるでゴジラとミニラが歩いているようで私的には面白くほほえましい風景でした。事実ふたりは同じ年(1998年)に逝去されました。本当に仲がよかったのですね。

◆淀川長治 略歴
わたしは2000年公開作品淀川長治物語・神戸篇 サイナラ(大林宜彦監督)の配給を担当しました。そのときの資料を参考に淀川先生の略歴を紹介します。
1909年(明治42年)兵庫県神戸市生まれ。芸者置屋の跡取りで二人の姉m三人の弟。父が映画館の株主だったこともあり、幼少期から映画館に頻繁に通う。
1927年(昭和2年)上京し、雑誌「映画世界」の編集部に就職するが、2年後神戸に戻る。
1933年(昭和8年)ユナイテッド・アーティスツ大阪支社勤務。チャップリンとの対談など行う。その後東京支社で「モダンタイムス」「駅馬車」の配給宣伝を担当。
1941年(昭和16年)東宝宣伝部に就職、黒澤明監督と出会い生涯の親友へ。
1960年(昭和35年)現テレビ朝日「ララミー牧場」の解説で一躍有名に。
1961年(昭和36年)雑誌「映画の友」編集に携わる。
1966年(昭和41年)テレビ朝日「日曜洋画劇場」(当初「土曜洋画劇場」)スタート。以来同番組解説者として、お亡くなりになる前日まで32年間出演し続ける。
番組冒頭の「はい皆さん、こんばんは」、番組末尾の「さよなら、さよなら、さよなら」は名台詞となり、淀川先生はお茶の間の人気者となりました。
◆映画「淀川長治物語・神戸篇 サイナラ」と淀川長治展

「淀川長治物語・神戸篇 サイナラ」
劇場公開 2000年
監督:大林宣彦
脚本:市川森一、大林宣彦
出演:秋吉久美子、柄本明、ガダルカナル・タカ、勝野洋輔、勝野雅奈恵、白石加代子、嶋田久作、大森嘉之、岸部一徳、根岸季衣、高橋かおり、宮崎あおい、宮崎将
淀川先生と大林宜彦監督の一番大きな接点は、おそらく大林監督が「日曜洋画劇場」のオープニングムービーを担当したことだと思います。淀川先生がお亡くなりになり、すぐに特番の企画が立ち上がりました。大林監督のこだわり(淀川先生のドラマなので、映画=フィルムというこだわり?!)でビデオ収録ではなくフィルムで撮影することになり、放送だけではなく映画館での劇場公開にしたいという思いが強かったように感じました。そこでわたしは、通常の公開ではなく、淀川長治展やトークショー、劇場公開を同時に行うイベント方式を提案実施する方向で協力着手させて頂きました。関係各社の調整を行い、多数の協賛・協力を得て、横浜での開催に漕ぎつくことができました。トークショーには、淀川先生と大林監督にゆかりの深い山城新伍、奥田瑛二、永六輔、片岡鶴太郎、山本晋也さんが手弁当で出演参加してくださり、壮大な、そして楽しい淀川先生をしのぶ会となりました。だれもが少年時代から淀川先生の映画解説で育った面々なのでした。あらためて淀川先生の影響力を感じる機会となりました。

それから早くも20年が過ぎましたが、淀川先生を越える影響力のある映画解説者は未だに現れてはいません。おそらくこの先も現れないと思います。
唯一無二の映画解説者、それが淀川長治さんなのです。